あの国のスイマーたちは?

3月22日付、New York Times。

グレゴリオ・パルトリニエリ(イタリア)はスタート台に立ち、構え、プールに飛び込んだ。彼は3回飛び込み、400m、800m、1500m自由形を泳いだ。だが、先週ローマ郊外のオスティアで見た25mプールの光景は、イタリアの五輪代表選考会が開催されたはずの代替としては、あまりにも貧弱であった。本来なら、リチョーネにある50mプールのはずだったからだ。
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「プールには他に誰もいなかったよ」
パルトリニエリは言う。
「観客もいないし、タイムを計る人もいない。僕と水だけ。レースはひどいもんだった。僕は全然準備ができていなかったんだ」

オリンピック・アスリートは4年のサイクルで活動しているが、コロナウイルス騒ぎによって、多くの選手がそのサイクルを破壊されてしまった。東京五輪を予定通りに7月24日から8月9日まで開催することが賢いとか、安全かどうかとか、このさい忘れよう。1500m自由形の前回五輪覇者であるパルトリニエリは、もう一つの疑問を投げかける。
「これが選手たちにとって公平なのか?」

イタリアでは、ナショナルチームのメンバーであってもプールを使用できている選手は一握りで、パルトリニエリはその一人だという。これはアメリカでも同様で、有望な五輪選手たちはアリゾナでトレーニングを続けている。様々な制約はあるが。

その土地の気候によっては恩恵を受ける場合もある。間に合わせのトレーニングジムを作ったり、ウエットスーツを着て海で泳いだり。だが厳密な練習メニューというわけにはいかない。

練習時間を大幅に失った選手ならば、誰でも「8月の五輪で戦うなんて想像できないと思う」とパルトリニエリは言う。

日曜日、1980年代の五輪で6個のメダルを獲得したミヒャエル・グロス(ドイツ)は、IOC会長のトマス・バッハに対して大会を延期するように、と声を上げた。「もう2020年(の開催)なんてフェアじゃない」。グロスはバッハに公開書簡を送った。バッハもドイツ出身である。
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日曜日のIOC緊急理事会では、実質的に4週間の期限を設定した。日本側とも協力して、延期するか、規模を縮小した形で開催するかを判断する。

数日前のIOCの声明は、アスリートの現状を理解していないものだった。彼らは五輪本番や代表選考プロセスに向けて、さらなる不安や動揺を抱えて過ごすことになる。だが日曜になって、1976年のフェンシング代表でもあるバッハは、窮状を訴える選手たちに向けて公開書簡を送った。

「不安が私たちを覆い、前向きな未来に対しても疑いが生まれている」バッハは綴った。さらに、たとえ「可能性が小さいく見えたとしても」適応し、あきらめないことが成功するアスリートの証であり、IOCは大会について拙速な結論を出すことはしない、とも述べた。

IOCの声明に対すしてコメントを求められたパルトリニエリは言った。
「おしゃべりはたくさんだ。今は、僕は8月に開催されるものと思って練習を続けるだけだよ」

戦いの場が決して公平にはならない、ということが議論になる。ある国は練習環境に恵まれ、最先端のプールを使い、先進の科学を用いた指導を受ける。ある国はドーピングをすり抜ける新たな方法を編み出し、国境が封鎖されている状態ということも手伝って、いたちごっこが騙す側に有利となりうるのだ。

しかし、コロナウイルの流行は、各国内間でも不正義をもたらしている、とパルトリニエリ。「誰も戦うための心と体の準備ができない」。

アメリカでは、ケイティ・レデッキーとシモーヌ・マヌエルが、スタンフォード大の練習施設が閉鎖されたために、あわてて代わりのプールを探した。二人合わせて10個のメダルを獲得した選手が、である。8個のメダルを持つアリソン・シュミットは、アリゾナ大のプールを使い続けることになったが、1日2時間の制限付きである。

シュミットは、プールへのアクセスについて語った5時間後、アリゾナ大の施設が今週中に完全に閉鎖されるという連絡を受けた。

「毎日確認するしかない」とシュミットは言う。彼女は自宅の裏庭に、急ごしらえのトレーニング場を作った。TRX製のストレングスバンドを取り付けたものだ。学内のウエイトルームは閉鎖されている。trx-or-resistance-bands.jpg
アメリカの競泳代表選考会は、6月21日から28日まで、オマハで予定されている。

パルトリニエリはオープンウォーターにも出場するが、イタリア国内のビーチが閉鎖されているために、海での練習ができない。一方、アメリカのスイマー、マイケル・アンドリューは太平洋で泳いでいる。地元サンディエゴ一帯のプールが使えないからだ。

英国代表として3度五輪に出場したスコットランドのハナ・マイリーは、コーチでもある父親から、水着のスポンサーであるアリーナにウエットスーツを届けてもらえと言われた。アバディーン大学のチームメイトが、ドン川やディー川でなら練習できるからである。

マイリーは先週末、ロイヤル・コモンウィルス・プールでおこなわれたエジンバラ国際に出場した。サッカーや他のスポーツは英国内で軒並み中止や延期になっていたときだ(大会終了後まもなく、4月に予定されていた代表選考会の中止が決まった)。大会中の土曜日の決勝セッションがおこなわれていたとき、上の階のスタジオではウエイトトレーニングのレッスンが開かれていた。二人の10代のスイマーは観客席の後ろで、スコットランドの首相は500人以上集まるイベントは控えるようにと言っていたが、この大会は500人集まっているんじゃないかと議論していた。

イタリアではパルトリニエリがエジンバラの結果を聞いて困惑していた。
「イタリアは実質的にすべてシャットダウンなのに、英国では選手が集まってレースしている?いったいフランスとか英国ではどうなっているんだ?」
パルトリニエリは言う。
「彼らは、どこも同じ問題を抱えていて、こっちは状況が毎日悪化しているのを知っていて、自分たちのほうは練習やレースをしているんだよ」

パルトリニエリは12月のなかばにレースに出て以来、本番を泳いでいない。
「このままいったら7、8か月、五輪までレースなしだよ。今五輪をやるなんて考えられない」

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