孫陽VS水泳界 

7月23日付New York Times。

ドーピングの雲が、このスポーツと世界最高峰のスイマーの一人の頭上に垂れ込め、今週の世界選手権の空をも覆っていたが、それがついに爆発した。6個の五輪金メダルを誇る中国の孫陽に対する静かな抗議が、水面に姿を現したのである。

孫陽は火曜日の200m自由形で、11個目となる世界選手権のタイトルを獲得した。優勝と思われたリトアニアのダナス・ラプシスがスタート台で動いたとして失格になったのである。どのスポーツでも悪役を必要とするものだが、人を人とも思わないような態度の孫陽は、うってつけの人物に思われた。彼が勝つたびに、水泳界は怒りの声を上げた、このスポーツに起こっている、間違ったことの象徴としてである。

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27歳の孫陽は7年前のロンドン大会において初の中国競泳金メダリストとなったが、以来多くの怒りを買ってきた。2014年に禁止薬物の陽性反応が出て3か月の資格停止処分となったが、この時は心臓の治療目的だったかもしれないとされたのだった。それ以降、彼の記録破りのキャリアは論争を呼び、それが五輪の次に大きなこの大会で表面化したのである。

日曜日、豪州のマット・ホートンは、400m自由形の表彰台に、孫陽とともに上がることを拒んだ。23歳で前回五輪覇者のホートンは2位となり、FINAから公式に非難を受けた。孫陽のファンたちはホートンのSNSに誹謗中傷を書き込み、中には殺人予告まであった。
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そんな中でも、英国のダンカン・スコットは火曜日、200自由形の表彰式でホートンに続く振る舞いをした。3位のスコットは孫陽との握手や写真撮影を拒否したのだ。

6フィート6インチの大男である孫陽は、プールエリアを出る際にスコットの胸を指さし、叫んだ。
「負け犬が。買ったのは俺だ!」

その後も孫陽はスコットに対し突っかかっていたが、スコットは笑みを浮かべて歩くだけであった。孫陽は記者会見場に現れなかった。通常のレース後の薬物検査で忙しかったからだ。確かなのは、孫陽はこれからも、水泳界の浄化という問題に光を当てる存在として、スターであり続けるだろうということである。それは一つには自信の振る舞いが原因だ。ホートンは孫陽を2016年リオ五輪で「インチキクスリ野郎」と評したが、9月に薬物検査の血液サンプルを叩き割る行為に及んで、疑惑の目はさらに深まった。

米国のリリー・キングは100m平泳ぎのウォームアップをしていたとき、巨大スクリーンを見上げるとメダルセレモニーの様子が映し出されていた。キングは薬物違反者やFINAの努力不足に対して公然と批判を口にしているが、今回はスコットに対して尊敬すると表明した。

「本当に勇気のいることよ」
キングは言い、スコットはこの後が大変だとも言った。
「FINAはね、孫陽を非難するよりもマット・ホートンを非難しているのよ」

それが当たっているかどうかは、多くのスイマー、特に米国や豪州の選手にとってはもはや問題ではない。孫陽がまだヨチヨチ歩きだった1994年、10人の中国人スイマーが競技力向上薬物で陽性反応が出た。中国は1995年のパンパシ大会で除外され、この一件は西側の選手たちに疑惑のヴェールを抱かせることになった。

孫陽が検査を無茶苦茶にしたことは極端だが、検査プロセスに対して選手が不満を表すというのはこれまでにもあった。

米国反ドーピング機構(USADA)のトラビス・タイガート理事は、アスリートは時としてサンプル提出を様々な理由でためらう、と言う。その場合は、検査当局と連絡を取り、自らの懸念をつたえるように勧めているという。メール取材に対し、タイガートは答えた。
「私は過去10年で1~2ダースくらいの選手に、検査プロセスを説明したり、質問に答えたりしました。サンプルを提出されて、それを選手に破壊されたなんてことは一度もありません」

アスリートは、薬物検査に対しては同じ緊張感で臨む。パイロットがフライト前に機材チェックをするのと同等の緊張感で臨む。検査が陽性と出れば、キャリアが台無しになり、名声をいっぺんに失うからだ。

五輪で8個のメダルを獲得しているネイサン・エイドリアンは、USADAの検査員に対して、検査の手順の説明を求めたことが何度かあると言う。もしも、検査員がそれでもまごついたりしたら?

「主任検査員から離れないようにして、サンプルから目を離さないようにする。そしてFedExの配送所から運び出されるまで見届ける」
エイドリアンは言う。
「それから途中でUSADAに電話して、書類手続きが正当かどうか確かめるね」

孫陽のケースでは、独立評議会が双方の主張を聴き、孫陽の言い分が通った。担当者が、血液採取に必要とされる、国際検査基準(International Standard for testing and Investigations)が定めるところの書類を提示しなかったからだという。

「難しい判断だったとは思いますが、選手側の判定勝ちですね」
タイガートは言う。

WADAはスポーツ仲裁裁判所(CAS)を通じて、孫陽に対しさらに重い処分を科すことを考えているが、公聴会が開かれるのは9月である。

ホートンは孫陽の問題が今大会までに解決しなかったことに怒り、ためらいを覚えながらも表彰式で抗議の意を示した。どういう事態を招くかはわかっていたからだ。

「あの豪州の選手が、俺に対して不満で個人的な感情を持っているのは気づいていた」
400のレース後、孫陽は通訳を介して言った。
「俺をディスるのは結構だ。でも中国を侮辱するのは残念だし、不幸なことだよ」

キングは、ホートンが日曜の夜に夕食会場に姿を現したとき、世界中のアスリートが彼に拍手を送る光景を見たという。だがホートンは他の場所では批判を受けた。豪州の反ドーピング機関で理事を務めていたリチャード・イングスはツイッターで、ホートンの振る舞いは罰金者だとつぶやいた。

メルボルンのラジオ局のインタビューで、イングスは自らを「孫陽の大ファンではないが」と前置きしつつ、「アスリートが、他者を確証のないことで糾弾するというのは、非常に危険なことなのです」と語った。

FINAはホートンを非難する声明を出した。
「FINAの大会は、個人の意思表示や声明を発表する場でなはい」



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